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「東京で三世代が共に暮らし、自然とともに生きる住まい」〈建物完成編〉

着工から約1年。
「東京で三世代が共に暮らし、自然と共に生きる住まい」がついに形になりました。
この家づくりは、住まい手である私の家族の心地良い暮らしを求めると同時に、 環境への貢献、住まい手の健康、そして長期的な経済性を同時に成立させる挑戦でもありました
外構、造園の工事はまだ始まったばかりですが、建物としては一旦一区切りを迎えました。
この記事では、私たちが追求した価値観と、それを実現した建物の概要をご紹介します。

この家づくりで大事にしたこと

この家づくりでは「環境」、「健康」、「経済性」、「暮らし心地」の4つの要素を柱とし、それぞれを最大限に高めることを意識して進めました。
1.環境への貢献:LCA(ライフサイクルアセスメント)視点で未来へつなぐ
私たちは、家を建てることによる環境負荷を最小限に抑えるため、LCAの視点を重視しました。
  • 長寿命化とリユース:構造を長持ちさせる造りとし、内装や設備は手入れ・交換しやすい設計にしました。さらに、将来的に建物を分解して資材をリユースできることを目指しています。
  • 持続可能な資源の利用:構造材には、持続可能な林業施業が行われている近隣の林産地、西川材を利用。地元の木材を使うことで、輸送エネルギーの削減にも貢献しています。
  • 省エネルギー:高い断熱性能を確保し、省エネルギーで暮らせる住まいを実現。敷地の環境再生にも取り組み、自然との共生を目指します。
  • 敷地環境の再生:土の中に新鮮な空気や水を届け、土が、植物が、生き物が生き生きと暮らせるよう、敷地環境を再生中。
2.健康増進:きれいな空気と快適な温熱環境
 
住まい手の健康は、何よりも大切な要素です。心地良く、良い気分で過ごせる空間づくりを目指しました。
  • 化学物質の抑制:内装や壁の内部には、極力薬剤、化学建材、複合建材の使用を控えました。これにより、化学物質の揮発が少ない、きれいな空気を保ちます。
  • 積極的な断熱化:伝統工法でありながら、土壁の外側にセルロースファイバーによる外断熱を施し、冬は温かく、夏は涼しい空間を実現。家中どこでも快適な温度で過ごせます。
  • 自然素材の採用:キッチンや階段、収納の建具に至るまで、可能な限り無垢材を使用。優しい手触り・足触りで、五感に心地よい空間となっています。また、畳床にはヒバの屑を利用し、香りも良く、踏み心地も柔らかです。
3. 経済性の確保:長期的な視点でのコスト最適化
 
家は大きな買い物ですが、長期的な視点で見れば、初期費用だけでなく、維持管理費やエネルギーコストが重要になります。
  • 構造の耐久性:構造を長持ちさせる造りにすることで、将来的な大規模修繕のコストを抑制します。また、敷地の水はけを良くする工夫も施し、建物の耐久性を高めています。
  • エネルギーの自給:省エネに加え、太陽光発電、太陽熱温水器、蓄電池を導入し、「HTTの家」(減らす・創る・蓄える)を実現。光熱費の削減と災害時のレジリエンスを確保しました。
  • 住み継ぎの柔軟性:親世帯用と子世帯用のスペースを、子育て中、子育て後といったライフフェーズごとに住み継げるよう設計。将来の家族構成の変化にも柔軟に対応できます。
  • 優遇制度の活用:税制優遇措置や補助金を積極的に活用し、賢く経済性を確保しました。

4. 暮らし心地の確保:つながり、潤う住まい

二世帯同居の鍵は、「独立しながら支え合う」という絶妙な距離感です。
  • メゾネット形式の間取り:1棟2戸のメゾネット形式を採用し、親世帯と子世帯のプライバシーを確保。
  • 緩衝地帯の設置:親世帯と子世帯のリビングの間に両世帯の玄関を配置し、緩衝地帯とすることで、「ちょうどよい距離感」を生み出しました。
  • ライフステージに合わせた設計:親世帯側は老後に暮らしやすい空間、子世帯側は子どもと暮らしやすい空間となるように設計。
  • 自然素材の採用:内装から構造、下地までほとんど全て自然素材を採用し、心地良い手触り、足触りを実現しました。
  • 自然との一体感:庭を生活の一部に組み込み、暮らしに潤いを与えます。環境整備により、穏やかな敷地環境を整えていきます。
  • 家事楽設備の導入:家事の負担を減らし、生活に余裕を生むために家事楽設備も積極的に導入しました。

建物の主な仕様:伝統工法と最新技術の融合

そのような目的を実現するため、建物は以下のような仕様で設計しました。
構造:木組み、土壁の伝統工法
木材:近隣の林産地の木材、西川材を天然乾燥して使用
温熱:土壁の外側にセルロースファイバーで外断熱(伝統工法でありながら高い断熱性能を確保)
制約:内装にも壁の内部にも極力薬剤、化学建材、化学接着剤を使用しない。複合建材の使用も極力控える。
時間軸:100年以上使うことを前提とした設計
間取り:1棟2戸のメゾネット、親世帯と子世帯の独立性を保ちながら緩やかにつながる
エネルギー利用:太陽光発電、太陽熱温水器、蓄電池を導入
造園土木:大地の再生の考えに基づいて環境整備を実施中

完成した住まいの風景(写真紹介)

木製の玄関。木の温もりが家族を迎えます。2つの玄関の間には傘掛けを作成してもらいました。
木製の玄関。木の温もりが家族を迎えます。2つの玄関の間には傘掛けを作成してもらいました。
子世帯のリビング。私たちが元気なうちに子どもに引き継ぐ予定の空間です。収納の建具は取り付け前ですが、無垢材の床と壁が優しい雰囲気を醸し出しています。
子世帯のリビング。私たちが元気なうちに子どもに引き継ぐ予定の空間です。収納の建具は取り付け前ですが、無垢材の床と壁が優しい雰囲気を醸し出しています。
床もキッチンも収納も階段(下地も含む)全て無垢材で作成されています。
床もキッチンも収納も階段(下地も含む)全て無垢材で作成されています。
住み始めてからのダイニング。木の経年変化が楽しみです。
住み始めてからのダイニング。木の経年変化が楽しみです。
親世帯と子世帯のリビングの間に両世帯の玄関。緩衝地帯があることでちょうどよい距離感になりました。
親世帯と子世帯のリビングの間に両世帯の玄関。緩衝地帯があることでちょうどよい距離感になりました。
親世帯のリビング。私たちが子育てを終えたころに移り住む予定のスペースです。
親世帯のリビング。私たちが子育てを終えたころに移り住む予定のスペースです。
畳表のいぐさも減農薬、畳床にはヒバの屑を利用しました。香りもよく、踏み心地もやわらかです。
畳表のいぐさも減農薬、畳床にはヒバの屑を利用しました。香りもよく、踏み心地もやわらかです。
子ども部屋。もうしばらくは1室を2人で利用。
子ども部屋。もうしばらくは1室を2人で利用。
書斎。仕上げも土壁とし、土に包まれるような落ち着いた空間で、集中して作業に取り組めます。
書斎。仕上げも土壁とし、土に包まれるような落ち着いた空間で、集中して作業に取り組めます。

最後に

この先100年後は、ひ孫夫婦とやしゃご家族でしょうか?

他の方であっても、住まい手に愛されながら住んでもらえたらと祈りながら、ここでの心地良い時間が始まりました。

 

家づくりの過程では、悩んだこと、迷ったこと、 「こうすればよかったかもしれない」と思う点も含め、お伝えしたいことが山ほどあります。

「伝統工法でも高断熱にする」、「伝統工法と室内空気環境」、「光熱費の削減と補助金の活用」、「ライフフェーズに合わせて住み継ぐ設計」、「設計事務所で家を建てる価値、苦労、コツ」、「太陽光パネルの選定」などなどタイトルは変わると思いますが。

今後、テーマごとに書いていきたいと思います。

またぜひのぞきに来てください。