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エコハウスの基本:「ゴミ」にならない家


1. 「ゴミ」と家

1-1. 土に還るモノと、還らない「ゴミ」

20年ほど前、インドを旅していたときのこと。
街にはビニール袋が散乱し、アジアの活気と同時に“モノと環境の関係”を強烈に意識させられた記憶があります。

 

チャイを買うとその場で素焼きのカップに注がれ、
飲み終わったカップはその場に投げ捨てる。

カップは土に還り、自然の循環の中へゆっくり戻っていく存在でした。

素焼きのチャイカップ カレーの哲学.comより
素焼きのチャイカップ カレーの哲学.comより

一方で、ビニール袋は自然界の営みでは分解されず、景観も環境も壊していました

 

私が南インドでホームステイした家は、土の壁に茅で葺いた屋根の素朴な住まい。
解体すれば、多くの部材は自然に還ります。

不要になっても“ゴミ”にならない家でした。

私にとって、心地良い家の貴重な原体験だったように思います。

 

インドでビニール袋が「処分が必要なゴミ」となったように、現在日本でも家が「処分が必要なゴミ」となっています。

1-2. 日本の家を壊すと約50トンの廃棄物が一度に出る


現代の一般的な木造住宅(延床30坪程度)を解体すると、
約50トンの廃棄物が発生します。※中越地震の統計より

これは、

  • 家庭ごみの平均排出量:約500g/人/日 ※一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和4年度)より

  • 3人家族が 90 年間に出す家庭ごみの総量

 

に相当し、「家一軒を壊す=一家族が一生で出すゴミが一度に出る」という衝撃的な量になります。

 

家づくりは壊すときの環境負荷まで含めて考えることが必要な時代になっているのです

2. 「資源の貯蔵庫となる家」へ

2-1. サーキュラーエコノミーというヒント

これまでの経済は、
資源を取る → 使う → 捨てる(リニア型)という、「使い捨て」が前提でした。

 

これに対し、サーキュラーエコノミーは、
資源を循環させ、捨てずに使い続けるという考え方です

リニア → サーキュラー・エコノミー(環境省より)
リニア → サーキュラー・エコノミー(環境省より)

2-2. 土に還る家でもなく

建材が一つの家での役割を終えた後も、別の場所で再び活かされるのであれば、その家はもはや“廃棄物を生む存在”ではありません。

土に還る家でもなく、むしろ 資源を蓄えている貯蔵庫 と言えます。

 

×ゴミになる家
△土に還る家
○資源の貯蔵庫となる家

3. 家を「資源の貯蔵庫」に変える4つの工夫

あなたの家を「資源の貯蔵庫」とするために、家を建てる際に知っておきたい、4つの工夫を紹介します。

3-1. 「解体しやすい」設計で資源を取り出す

ゴミ問題を根本から変えるには、
建てるときから“解体を想定する”設計 が必要です。

別荘のサブスクリプションサービスを展開しているSANUでは、建築用の図面だけでなく、解体用の図面も作成しているとのこと。

  • 釘や接着剤を多用しない

  • 複合素材(窯業系サイディング、複合フローリング、ビニールクロスなど)を避け、単一素材(無垢材、土壁、100%ウールの断熱材、金属系建材など)を使う
  • 材料を分離しやすく組む(はめ込み・クランプ固定・着脱式の留め具など)

  • 古民家のように「外せる」「運べる」構法を参考にする

こうした工夫により、建材は“ゴミ”ではなく“資源”として次の用途へ受け渡せます。

3-2. 「長持ち」と「変化に対応できる」設計

長寿命化は廃棄物削減の最も有効な方法です。
耐震・耐湿性能を高め、設備更新がしやすい構造にすることで、家の寿命は大幅に延びます。
特に効果的なのが、
スケルトン・インフィル(SI)型の設計です。
スケルトン(骨格):長く使う
インフィル(内装・設備):交換しやすくする
長持ちし、暮らしの変化にも対応できる住宅は、廃棄物の発生を大きく減らします。
この木組みの構造は全て傷つけることなく解体することができます
この木組みの構造は全て傷つけることなく解体することができます
書斎の机。普段は壁につけて使用していますが、建物から独立した家具としています。
書斎の机。普段は壁につけて使用していますが、建物から独立した家具としています。

3-3. 建材のトレーサビリティを明らかにする

建材をリユースするにあたって、建材の情報を正しく知る必要があります。
  • 建築中の変更点などを図面に最終的に正しく反映させ、図面の信頼性を確保しておく
  • 海外では建材にQRコードを印字しておき、解体時に建材情報にアクセスできるようにしているケースもある

3-4. 「リサイクル」ではなく「リユース」を

日本のリサイクル率(約96%)は高いように見えますが、
多くは「焼却し、熱回収する」=サーマルリサイクルです。

本来は、

  • リユース(場所などを変えつつ再利用する)

  • マテリアルリサイクル(素材として再活用する)

これらが増えなければ、“資源の循環” にはなりません。

4. 社会の仕組みごと変わるとき

住宅が「資源の貯蔵庫」として価値を持つには、社会の側にも変化が必要です。
長期的に人々が、

  • 「ゴミになる家」ではなく

  • 「資源のストック(貯蔵庫)」となる家を所有するほうが得だ

と自然に思える社会になること。

以下では、その実現の鍵となる3つの社会変化を紹介します。

4-1. 所有から利用へ──住宅にも広がる「as a Service」の発想

Philips(現 Signify)は、企業や公共機関向けに
「Light as a Service(照明のサービス化)」 を展開しています。
照明器具を“売る”のではなく、定額で貸し出し・管理する仕組みです。

利用者は照明器具を“所有しない”ため、メーカーは

  • 長持ちする照明

  • 修理しやすい照明

  • 回収して再利用できる照明

を作るインセンティブが働きます。

 

住宅に応用すれば、
長く使える家・資源として価値が残る家を作る会社が選ばれる社会
が実現します。

4-2. 建材リユース市場の成熟──「中古建材は資源」という認識へ

メルカリやヤフオクの成長により、
一般の消費者が中古品を売買する文化が根づきました。
もし 建材のリユース市場が成熟していけば

  • 資源としての価値が適正に “値付け” され

  • 必要とする人にスムーズに受け渡され

  • 建材をストックとして持つことが価値になる

という新しい住宅文化が生まれます。

 

4-3. 建材の回収システム──メーカーが循環の主役に

ユニットバス、給湯器、太陽光パネル、サッシなど、
交換のタイミングで メーカーが回収する仕組み が広がれば、
メーカーは再資源化を考えた製品設計を進めるようになります。

 

 

Appleはリサイクルプログラムにより、ユーザーの機種交換時に旧モデルを回収しています。

ロボットにより、部品別に分解することにより、旧機種に使用されているレアメタル、アルミなどの素材を廃棄することなく、破砕して価値を落とすことなく、製品製造に有効利用しています。

 

まとめ:家づくりは「未来への投資」へ

「資源の貯蔵庫となる家」をつくることは、家の資産価値を維持し、将来の解体コストや環境コストを削減する「未来への投資」になり得ます。
  • 分解しやすい構法選択

  • 長寿命で可変性のある設計

  • 単一素材の選択
  • トレーサブルな建材選択

これらの工夫を積み重ねれば、
住宅はゴミではなく資源の貯蔵庫 になります。

住まいづくりを通じて、地球と未来に投資する——
そんな価値ある選択が広がることを願っています。

画像クレジット

画像①:カレーの哲学.comより

https://philosophycurry.com/watte-chai

 

画像②:環境省『令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書』より

https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r03/html/hj21010202.html

 

画像③:自宅の建築中写真

画像④:自宅の書斎