「エコハウス」シリーズの第2弾として、居住中に発生する最大の環境負荷である「冷暖房」のエネルギー使用量を削減するための建築的手法について解説します。
住宅を建ててから暮らしている間、私たちは大量のエネルギーを使用し続けます。特に冷暖房の使用は、家計に大きな負担をかけるだけでなく、地球環境にも無視できない負荷を与えています。
下のグラフは、現行の省エネ基準を満たす2つの住宅(住宅Aと住宅B)を比較したシミュレーション結果です。
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CO2排出量の差: 50年間で約48tの差。
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光熱費の差: 年間で約7.3万円、50年間で約364万円の差。
この圧倒的な差を生み出す鍵こそが、パッシブデザインです。この記事では、なぜ温熱性能の高い家(住宅B)がこれほどの省エネを実現できるのかを、具体的な手法とデータに基づいて解説します。

住宅Aと住宅Bは、2025年の新しい省エネ基準を満たした住宅です。
住宅A:現行水準の「スタンダード」
住宅Aは、現行の基準を比較的ぎりぎりでクリアした温熱性能を持つ家です。
しかし、現在日本で使用されている住宅の約8割は、この住宅Aよりも温熱性能が低いと推計されています。つまり、住宅Aは現在の日本の住宅の「平均以上の水準」を示していると言えます。
住宅B:温熱性能の「トップランナー」
一方で住宅Bは、住宅Aとは対照的に、極めて温熱性能に優れている住宅です。これは、高い断熱性や気密性を持ち、温熱環境に関して一年中快適で省エネルギーな暮らしを実現できる住宅です。
パッシブデザインとは:機械に頼らず快適性を追求する設計
私たちが暮らす中で使用するエネルギーを削減する代表的な手法がパッシブデザインです。
パッシブデザインの先駆者である建築家、小玉祐一郎氏の言葉にもある通り、その基本原則は「快適な室内気候をつくろうとする際には、まず建築的手法を試み、不十分であれば、機械的な手法で補う」ことです。
つまり、パッシブデザインは、冷暖房機器などのアクティブな設備(機械)に過度に頼らず、建物の配置、窓の大きさ、断熱材の性能といった建築的手法のみで、自然のエネルギー(太陽光、風など)を巧みに利用し、「快適な心地よさ」を追求します。その結果として、エネルギー使用量が大幅に削減されるのです。
パッシブデザインの主な手法
パッシブデザインは、主に以下の5つの要素があります。
- 断熱・気密
- 日射遮蔽
- 日射取得
- 中間期の通風利用
- 昼間の採光

1. 断熱・気密
家全体の壁・屋根を覆い、熱の出入りを防ぐ。冬は暖気を逃がさず、夏は熱気の侵入を防ぐ、土台となる最も重要な要素です。
冷暖房の効果も向上します。
主な指標:UA値(外皮平均熱還流率)
値が小さいほど高性能と言えます。
2. 日射遮蔽
夏の強烈な陽ざしを外部で遮断し、室温上昇を防ぐ。
軒や外付けブラインド、すだれ、植栽などにより外部で防ぐことが理想です。
主な指標:ηAC値(冷房期の平均熱取得率)
値が小さいほど高性能と言えます。
3. 日射取得
冬の昼間に太陽熱を室内に取り込み、暖房として活用する。暖房費削減の最も重要な要素の一つ。
日射取得は窓の打ち合わせのときだけ検討するのではなく、土地探し、配置計画、間取り、軒の出の検討、窓ガラスの選択など家づくりのプロセス全体で検討していくべきことです。
主な指標:ηAH値(暖房期の平均熱取得率)
値が大きいほど高性能と言えます。
4. 中間期の通風利用
中間期(春・秋)や夏の夜間に風の通り道を作り、自然の力で室温を下げる。
建築地の気候、植栽や庭のつくりによる微気候も同時に検討が必要。
5. 昼間の採光
照明をつけなくても、自然光で明るさを確保し、電気代とエネルギーを節約する。
多面採光や吹き抜けも効果的。
高性能なパッシブデザイン住宅では、これらの要素を季節に応じて使い分けます。
例えば、夏の夜間の通風では、北側の地窓(低い位置の窓)から涼しい風を取り込み、温まった空気は2階の高窓(高い位置の窓)からスムーズに屋外へ排出します。こうしたテクニックを最大限に活かすには、高水準な断熱・気密性能を土台としつつ、庭の風通しや植栽による冷気だまりの形成といった工夫が不可欠です。
パッシブデザインの利用による冷暖房負荷削減効果
このパッシブデザインの建築的手法により、どれだけ冷暖房の使用に影響を及ぼすのか、自立循環型住宅への省エネルギー効果の推計プログラムを使用してシミュレーションしてみます。
【シミュレーション条件】
・建物のモデルは、国土交通省による自立循環型モデル住宅を使用します。
建築地:東京
家族構成:4人(夫婦+子供2人)
総外皮面積307.51m2
主たる居室45m2
その他居室40.00㎡
非居室35.08m2
延床面積120.08m2
・冷暖房は居室のみエアコンを使用、在室時のみの使用とします。
・全ての居室の照明設備はLED照明とします。
・電気代は東京電力、電力単価は将来に渡り1kWhあたり35円で一定とします。
・第3種換気(壁付け)を使用します。
1. 断熱性能の違いによる年間の冷暖房費への影響
「ηAC値(冷房期) 」、「ηAH値(暖房期) 」、「UA値」のうち、「UA値」のみを変化させて、冷暖房負荷をシミュレーションしました。

2. 日射遮蔽による年間の冷房費への影響
「ηAC値(冷房期) 」、「ηAH値(暖房期) 」、「UA値」のうち、「ηAC値(冷房期) 」のみを変化させて、冷暖房負荷をシミュレーションしました。

3. 日射取得による年間の暖房費への影響
「ηAC値(冷房期) 」、「ηAH値(暖房期) 」、「UA値」のうち、「ηAH値(暖房期) 」のみを変化させて、冷暖房負荷をシミュレーションしました。

シミュレーション結果の考察
- 断熱性能の向上: 断熱性(UA値)を高めるほど冷暖房負荷が削減されます。ただし、断熱性能だけを高めると、熱が逃げにくくなる反面、夏期に取り込んだ日射熱もこもりやすくなり、冷房負荷を上げてしまうことが分かります。そのため、日射遮蔽がセットで重要になります。
- 日射遮蔽の重要性: 夏場の冷房負荷を効果的に削減するためには、適切な日射遮蔽が不可欠です。
- 日射取得の有効性: 極めて断熱性能の高い家を除き、日射取得の向上は冬場の暖房負荷削減に大きく寄与します。日射は一種の暖房として機能するため、冬の快適性と省エネに貢献します。
これらの結果から、断熱性能だけでなく、日射遮蔽や日射取得といったパッシブデザインの各要素が、冷暖房に伴うCO2排出による環境負荷に大きな影響を与えることが理解できます。
まとめ:パッシブデザインで「家計・環境・快適性」のすべてを手に入れる
いかがでしたでしょうか。
断熱性だけでなく、日射遮蔽や日射取得といったパッシブデザインの建築的手法が、冷暖房費とCO2排出量に極めて大きな影響を与えていることが理解いただけたかと思います。
パッシブデザインは、単に光熱費を削減するだけでなく、「冬暖かく、夏涼しい」という住宅本来の快適性をもたらす、最も本質的な家づくりの手法です。
家づくりを計画される際は、ぜひこのパッシブデザインの考え方を設計に取り入れてください。
また、私の考えるエコハウスの全体像をお伝えする記事、「エコハウスって何?」もぜひご参照ください。
今後もエコハウスシリーズについての記事を書いていきますので、時々覗いていただければと思います。
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